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「ユーキ、キス……してもええかな?」
マイクのこの言葉で空気が一変した。
今までの友情による親愛に満ちた雰囲気から、緊張感漂うものに。
マイクは、基本的に素直な人だ。自分の感情をストレートに出して良い場面だと判断すれば、こちらが恥ずかしくなるような素直な表現をしたり、辛辣と感じるキツイ表現もする。
そこにあるのは彼の正直な想い。
彼は大人だから、本意じゃないこともする。状況に応じてオブラートに包んだ物言いをすることもある。
でも、心を明かして良いと思っている人の前では正直な気持ちを伝える。
だから、今、彼が私にキスしたいと思ったのは正直な衝動。それが友人としてなのか、異性としてなのか、人としてなのか、の判断はつかなかったけれど。
きっと、この今の空間は彼の心の琴線に強く触れたんだ。そして、その溢れだした想いは、素直な欲望に変化した。
何故かはわからないけれど、そうわかってしまったから。
恥ずかしい、だとか。
これからどうなるのか、だとか。
変化を恐れる気持ち、だとか。
そういう付加的なものを全て取っ払った素直な気持ちに従った。
「いいよ」
やっぱり慣れない状況に素っ気なく短く了承してしまったけれど。
いいよ。マイクとなら、キスしてもいいよ。
その想いを載せて目を閉じた。
動く空気。ピリピリと肌が切れそうな位の緊張感に満ちているけれど、だからこそ、彼の気持ちが伝わる。
そっと私の顎に彼の長くて大きい指が触れて。優しく、柔らかくて大きなものが私の唇に触れて。
溢れだす想い。
それは『私』のものなのか『彼』のものなのかわからなくなる。それくらい、境界線が緩く溶け合う感覚 。
その感覚に名付ける『言葉』を私は知らない。きっと彼もわかっていないだろう。
でも、幸せな瞬間だった。
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