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彼女に教えれば教える程、彼女のことを知れば知る程、好意は深まっていった。
もう『like(好き)』の域は飛び越えている。やからこそ、先週の『キス』になってしもうたんや。
そうわかってはいても、その気持ちを素直に表現できひん『理由』が俺にはある。
俺は溜息を吐き出した。
そのとき、俺がいる個室の扉が開き、黒髪ショートカットの美人が現れる。
「遅なってごめん!オーナーとのミーティングが長引いてもうて」
「マリカ、遅い。腹ペコや」
俺とマリカはランチとミーティングの約束をしていて、このクラシック音楽が流れるシックでお洒落なカフェの個室で待ち合わせ。
「そんなん!うちも同じやわ!」
マリカはそう文句を言ってからさっさとオーダーを決めて店員を呼び出す。訪れた店員にオーダーを言い、店員が去ってから。
「で?田中様の状況はどないなかんじ?」
キラキラした目で質問してくるので、ユーキの近況を簡単に説明する。
でもその説明方法として指示されているのが、誇張せずに物語風に語ること。
マリカいわく、俺には文才があり、物語風に語った方がよりリアルに鮮明に状況が思い浮かぶとのこと。
まぁ、こいつは昔から本が好きっちゅうのもあるんやろうけど。
マリカは俺が勤務している株式会社ファウルのナンバー2であり、俺の今の担当がユーキだというだけで、こんなややこしい報告会をしている訳やない。
『普通』の仕事の場合は週一のメール報告だけ。教えたカリキュラムの一覧、伸びた箇所の報告や問題点などを伝えるのみ。
「あんたのことやから『SL』したいって言われるやろうなぁって思ってたけど、やっぱり田中様は光輝く原石やったんやなぁ。久しぶりに会いたいわぁ」
隠語で『SL』
蒸気機関車のことではなく、『Secret Lesson(シークレットレッスン)』の頭文字を取って『SL』
それはマリカと俺と他数人の登録者のみに与えられる『裏の仕事』
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