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 浅陽がくれた言葉に、いつかのように涙がこみ上げてくるのを必死になって堪えていた。でも今回はダメだった。あの頃より年を取ったからだろうか。  公園の脇の、一つだけついていた街灯に照らされた僕の頬を幾筋もの涙が伝っていることに浅陽は気づいていた。ハンカチすら出さず、手の甲で頬をぬぐう僕を見て浅陽は何も言わずに唇の両端をふわっと緩め、やんわりと両手を広げてみせた。 「トモ、おいで」  アサヒが僕を呼ぶ。  あの頃と同じ呼び方で、あの頃よりも少しだけ大人になった声で。  あともう少しで、彼の住むマンションと僕の実家に向かう分かれ道に差しかかる。 高校時代、学校の帰りに「じゃあまた」「明日な」と言って別々に歩いて帰った道の手前で、僕は今、大好きな男の腕に包まれている。 「俺さ、あれがいちばんいやだった。入院した時とかに、もし智慎が駆けつけてくれても『ご家族の方ですか?』って聞かれて『いいえ』なんて言ったら面会できないでしょ?でもさ、命に関わるような事態になった時、誰に逢いたいかって考えたら親じゃなくて智慎に決まってるじゃん。悪いけど」 「それで、結婚?」 「それも、ある」  浅陽らしい言い方がおかしくて、僕は声を出さずに少しだけ笑った。  わかった。  それ以外の理由は、これから教えてもらうことにする。僕達には焦る理由なんてなくて、これからずっと一緒にいられるんだから。
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