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「落ち着いたらまた呑もうぜ。これからァ、俺達は会社でしごかれ、社会にもまれ…、そうだ!五月病になる前に連休あたりに元気に再会しようぜ!」  居酒屋の前で、声を張り上げじゃあなと手を振る櫻井達を見送り、浅陽と僕はなぜか同じタイミングでフゥッと溜息をついたことに笑いながら、歩き出した。  時計を見ると二十三時を過ぎたところで、駅の周りの飲み屋はかろうじて灯りがついているものの高速道路の向こうは漆黒で、ところどころ濃くなっている影は夜が明ければ青々とした山並みになる。 「櫻井、左手の薬指に指輪してたな」 「気づいたんだ。あいつ学生結婚するつもりで息巻いてたんだけど、彼女の親に反対くらって説得されて。結局、就職して相手のご両親にもちゃんと納得してもらってからにするって。『出直しだ!』って騒いでたよ。それが去年の今頃」 「学生結婚って、子供でもできたのか?」  それはないみたい、と浅陽は小石を蹴飛ばした。 「あいつのモットーが『鉄は熱いうちに打て』らしくて、二人の想いが熱いうちにってことだったみたい。けど、それ意味が違うよな」  と、浅陽が笑った。     
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