徘徊少女

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 私は疲れてきたのでベンチに座った。青年からなるべく距離を置いて端に落ち着いたのは、失礼だったかもしれない。 「大人はね、生きなければならない理由を毎日必死で考えてるし、望んでもいる。生きる理由が無くなったと思えば、命を絶つのは当たり前だよ」 「不倫の末路としては相応(ふさわ)しいってこと?」 「だから、それは妄想だ。想像力の無い僕が、貧困な発想で可能性の一つを口にしただけなんだ。真実なんて彼女にしか分からないさ」  君には少し難しすぎたかな。なんて言いながら、彼はトートバッグの中から銀の魔法瓶を取り出すと、紙コップに紅茶を注ぎ始めた。  豊かな香りが私の処まで茶の温かさを届けに来る。そういえば、今夜は昨夜よりも冷える気がする。 「貴方も生きる理由を探しているの?」 「君も飲むかい?」  紅茶の紙コップが、私と彼の丁度真ん中の位置に置かれる。  私はソレに手を伸ばすために、少しだけ青年に近づく。  紅茶に口を付けると、芳醇(ほうじゅん)な温もりが私の頼りなさを内から包んでくれるようで泣きたくなった。 「そのダージリン、僕が()れたんだ」 「美味しい……」何だか癪な気分でお礼を言う。  夜が降る公園で、私は美青年の淹れた紅茶を飲んで温まっている。傍には死体。見上げれば月の(あお)。  彼女はきっと、夜の住人だったのだ。それなのにお日様の下に出て行ったものだから、結局何かが磨り減って死んじゃった。  そんなことを考えながら、青年の横顔を見つめていた。  視線に気づいた彼は、「そのうち分かるさ」と言葉を残して去っていった。  公園を出ると、集合住宅の中にぽつんと(とも)る孤独な窓を見つけた。  あの四角に切り取られた薄いオレンジの中に住むのは幸せな人かしら。不幸な人かしら。  生きているの? 死んでいるの? 笑っている? 泣いている?  元気を出して。きっとあなたは大丈夫。と、心の中で呟いた。
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