徘徊少女

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 天から優しく落ちてくる夜。夜は降るものだ。  私は騒がしいお日様よりも、静かなお月様に愛されたい。  ゆるゆると、メロトロンの音色ように優しい光。  世界の全部が見えてしまわないように、隠してくれるヴェルヴェットのような心遣い。  表情豊かに欠けては満ちてゆく、喜怒哀楽。  なにもかも、私よりも人らしい。そんなお月様が好き。  私が夜の住人になったのは必然だ。  ジャンパースカートを着て、パンプス履いて、長い髪の上にはカチューシャ。  日傘を差して、何から何まで黒尽くめ。ああ、めくるめく黒ロリ。  そんな服装で、今夜も街を徘徊しています。  多くの人はお日様が好き。健康的と云うのもあるのでしょう。けれどきっと、便利というのが理由の大半のような気がする。  人との出会いも、お買い物に出るのだって、明るいほうが断然効率が良い。  この世界、昼を中心に回っている。  私にだって、青空の良さは分かります。  けれども、夜でなければ出会えない物もたくさん在る。  例えば夜に咲く花。  夜の花は昼の花よりも恥じらいがあるから好き。俯き加減に咲いていたかと思うとポトリと落ちる。含羞(がんしゅう)に耐えられなくなって、とうとう散ってしまうのだ。  そんなところが、素敵。  それから、夜は昼よりも優しい。だから人の多くは安気(あんき)な心持ちで眠りにつけるのだろうし、サナギが蝶に羽化するのも、夜が慈愛に満ちているから。  空を仰げば今宵は満月。月が明るい。でも本当は私、三日月のほうが好き。  空に張り付いた爪痕のような細い細い傷。私は空に手を伸ばして爪を立てる。すると幾つも幾つも三日月が出来て、私の頭の中の夜空が傷だらけになる。  まるで自傷行為の代替(だいたい)のようで、心地良い。
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