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やると言ったらやる、という状態がこの二人にはある。それを巧みに宥めすかして説得するのはノエの得意分野で、そして私の苦手分野。頭ごなしの制止はこの二人には無意味だ。しかし言葉を尽くそうにも、私は元来、口が上手い方ではない。
おまけに今回は、大好きなママのこと。私だってノエを助けたい。全く同じ想いを共有するエメとプリーエルをここに留めておく言葉を、私は知らない。
ヒロは自分が持って来た小瓶と私たちを交互に見つめ、「それを飲み干せば、溺れることは、ないですよ」と小さな声で付け加えた。
エメとプリーエルは顔を見合わせ、二人一緒に竜本来の姿に戻った。
私から見ればまだまだ小さな翼をぱたぱたと動かして、主張する。
「ママを助ける!」
「たすける!」
「……お前たちに何かあったら、パパはママに顔向けできない。お前たちが怪我なんかしたら、ママもパパもとっても悲しむんだぞ?」
「ママとパパが帰ってこなかったら、僕たちもっと悲しいよ」
私は言葉を詰まらせてしまった。
そう言われては、置いて行きづらい。危険だと言った手前、私が無事に帰れる保証もどこにもないのだ。
逡巡する私の頬に、プリーエルが小さな手の平でぽてり触れる。
「パパ、ひとりじゃ、あぶないよ?」
子どもらしく傾けられた頭が、私にとっては決定打だった。
エメもプリーエルも愛しい我が子、立派な竜だ。
その翼も爪も、大切な存在を守るために。
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