8. 悲願

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 語りながらもトーリの脚は俺の肌を刺激する。俺の身体は、それが性的な意図を持っていると分かる刺激には敏感に反応してしまう。質の悪いことに巧みな脚遣いに翻弄されながら、俺は必死で頭を回す。 「ぎ、儀式……」 「違う。もっと根本的な部分だ。お前はどういう状態だった?」  不埒な触手のような脚は、俺の服を捲り上げて蹂躙する。脇に這わされた時には高い声を上げてしまった。それで味を占めたように舌なめずりをするトーリは、次に俺の、胸に狙いを定める。 「ん、ん……っ、や……!」 「ほら、頭を回せ」  弄ばれている。と同時に、この問答を終わらせる気のないトーリの口振り。  辿り着かざるを得ない、答えがある。 「……死んだ」  今さらながらに俺の声は震えていた。  トーリの脚が全て動きを止める。俯いていた顔をトーリの腕にするりと撫でられ、髪を擽られたかと思えば、その唇は耳元に。 「ここに辿り着く者は、全て海で溺れ死んだ人間だ」  俺は続けるべき言葉を知らなかった。  代わりにトーリが次を口にする。 「人間は海の中では生きられない。だから姿を変えてここに定着した。もとは人間だが、この世界の住人になるために、本来の姿を捨てたのだ」 「……俺はいま海中で生きてる」 「ふん、ここで暮らしていけると思うか? その脚で?」 「…………」     
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