9. あるべきかたち

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 竜になれば、今よりもっと、ロワと理解し合える。  ちゃんと自分の言葉で気持ちを伝えられる。  一緒に空が飛べる。  エメとプリーエルの成長を、同じ寿命で見届けられる……。  まるで悪魔の誘惑だ。この交換条件は、俺がトーリに身体を差し出すこと。ロワ以外の男に抱かれるなんて今さら考えられない。だけど、これは家族のためになる。俺ももうすぐ三十になるし、この身体はこれから年老いていくばかり。それに引き換え、竜の寿命はずっと長い。エメは「継ぎの竜」。千年生きる。プリーエルは分からないが、それでも百年はゆうに生きるだろう。ロワは二人の成長を十分に見守ることができる。ロワのご両親が今もそうしているように。  だけど、そんな未来に、俺はいない。  この身体は老いて、家族を残して一人、死んでいく。  そう思うと身体が震えた。怖かった。悲しかった。やるせなかった。俺はロワを、エメを、プリーエルを愛している。この愛は紛れもなく本物だと胸を張れる。そうだと言うのに、俺は結局、彼らとは違う存在なのだ。  分かり合おうと重ねた努力。それが、泡沫のように消えていく、死の瞬間。     
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