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成績優秀なエメは、他の子よりも家に電話で切る時間が少し多いらしい。昼に電話がかかって来て、電話越しでも声が聞けて嬉しいなと思っていると、ベビーベッドの中でプリーエルがぐずりだした。ごめんね、切るね、とエメに謝るとエメは「うん! あっ、あのね、お兄ちゃんが、泣いちゃダメーって言ってるって、プリーエルに言ってね!」と言い残して電話を切った。
エメはよくプリーエルのことを気にしている。あまり会えずに可哀そうだから、一か月後にエメの学校である発表会には連れて行ってあげたいのだけれど。
まだ小さいし難しいかな、とも思い悩む。その間にもプリーエルの鳴き声はだんだんと大きくなってしまうものだから、俺はベッドからプリーエルを抱き上げた。
「はいはい、どうしたの? あんまり泣いてると、エメお兄ちゃんに怒られちゃうよ」
「んぅー、ま、まー……」
頬を涙で濡らしながら、プリーエルは俺にしがみついて、はむっと俺の服を咥えるとそのまますぐに寝入ってしまった。眠いのに俺が傍にいなかったから寂しくて泣いていたのか。手は掛かるけど、その分可愛い。赤ちゃん一人の世話なんて楽なものだ。孤児院で何十人もの弟たちの面倒を見ながら暮らしていた頃に比べれば。ロワが稼いでくれるから資金は豊富、清潔な家と、親切な近所の竜たち。優しい夫。
幸せな日々だ。憂いもなく。満たされた時間。
俺はプリーエルを抱えたままソファに座って、少し、これからのことを考えた。
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