間章3. エメの成長

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 開演の一時間前には着いていた甲斐もあり、俺たちは最前列でエメの劇を見ることができた。一つでも列が後ろになってしまうと、俺の眼にはもう竜たちの背中しか映らなくなることは分かり切ったことだったから、大袈裟なほど早めに来たのだ。  エメは初等部が行う劇の主役だった。  舞台上に出て来たエメは、俺を見つけてぱっと顔を輝かせた。それでも自分の台詞は忘れることなく、明朗な声で王子さまを演じる。  言葉の分からない俺は、劇の内容が分からないことはもう諦めて来ていたのだが、エメの台詞でだんだんと気付いた。このお話は、エメが俺に読み聞かせてくれた絵本のお話だ。内容を思い出すと、場面の流れや身振り、子どもたちの表情で、なんとなく進行具合が分かってくる。王子さまが旅の道中でどんどん仲間を増やしながら、最後には悪い竜をやっつけて、お姫さまを助け出すストーリー。  エメは見事に演じ切った。見ると、中には上級生も混じっていたようだが、気後れすることなく堂々と。  カーテンコールに並んだエメは、俺に向かって満面の笑みで手を振っていた。 「ママ! パパ! 来てくれた!」 「もちろんだよ、エメ。一番前だったでしょう?」 「うん! やくそく! ありがとうママ、パパ、うれしい!」 『――――』  エメたちの劇が終わると三十分の休憩が入り、その時にエメが俺たちの元まで駆けてきた。周囲を見ると、みんなそれぞれ、自分の子どもたちと会話をしている。そういう時間らしい。     
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