間章1. まさか、まさかの

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 ロワはくしゃりと顔を歪めた。その大きな手がゆっくりと示した返答は、  「子ども」「とても」「嬉しい」「でも」「ノエ」「苦しい」「辛い」「嫌」  こんなに細かい意思疎通ができるようになったことに、場違いだろうが素直な嬉しさを感じる。ロワはカードで示した後に、ククを通じてもっと細かいことを伝えてくれた。子どもを宿してくれたことは本当に嬉しい、本音を言えば、もちろん産んでほしいと思う、だけどそのために俺が傷付いたり苦しんだりするは嫌だ、あの儀式をもう一度なんて、考えただけでもぞっとする……、と。  何か他に方法があるかもしれない、とロワは言った。その方法を探す為なら何でもする、きっと何かあるはずだからと。  その優しさは、受け取って。  俺もククを通して答える。 「一度やったことだから、覚悟はできます。もちろん怖いけど、もうすぐ産まれてしまうのでしょう? 他の方法を探している時間は無いと思う。俺、ちゃんとこの子を産みたい。大丈夫、エメもちゃんと産めたんだもの。……任せて」  そっと手を握ると、ロワはますます苦しそうに顔を歪めながらもゆっくりと俺を抱き締めてくれた。家に帰ってもう一度よく話し合おう、とロワは言った。それからそっと額にキスをしてくれた。     
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