2. 出発前夜

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「プリーエル、お兄ちゃんは大事な旅に行かなくちゃいけないんだよ」 「や、や、プリーエルもいく」 「あのね、少し長くかかるの。プリーエルはもうちょっと大きくなってからじゃないと……」 「やだー!」  意地を張るプリーエルの下で、エメがぷくっと頬を膨らませている。エメは賢くて聞き分けの良い子だったから、こんな風に駄々をこねたのは、……入寮の日くらいじゃなかっただろうか。エメを説得するのにもあんなに大変だったのだし、プリーエルを説き伏せるのは一筋縄ではいかないに違いない。  俺からプリーエルをひょいと抱え上げたのは、ロワだった。  そのまま片手でプリーエルをあやしながら、何やら先生と話し込む。先生は少し驚いたような顔をした後に小さく笑い、時折プリーエルに目をやっていた。その間に俺は、エメを腕の中に呼ぶ。  不満そうな表情のエメだったが、それでも素直に歩み寄って来た。エメはもう、俺の胸元くらいの身長がある。本当に大きくなった。顔付きも、大人びて。  俺が広げた腕の中に入って、きゅっと抱き着く。首に回された腕は太いし、背中も広い。俺はエメを抱き締めながら、その成長を心の底から嬉しく思う。 「お兄ちゃんしてくれてありがとうね、エメ。おっきくなったね」     
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