間章1. まさか、まさかの

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 ククはともかくとして、先生の前だったから少し恥ずかしかった。  その日は陽が落ちるまで、ククを挟んでロワと話をした。  導き出した答えは、――原初の森に戻って、産む。  俺はどうしてもこの子を産みたかった。ロワも、子どもができたことは喜んでくれている。この子もエメと同じように、望まれて産まれてくることができる。そんな命を無駄にしたくはない。それに、ロワと愛し合った証がこの世に生まれ落ちるのだという甘美さが俺の心を支配した。何としてでも、お腹の中のこの子の顔が見たいのだ。そのための苦しみならば何でも乗り切れると思った。  ロワと、それからククは儀式の過酷さや危険について言葉を尽くして俺に説いた。それでも俺の意思は変わらなかった。自分でも不思議なほどに、もちろん死に対する恐怖はあったし死ぬ気などさらさらなかったが、「大丈夫だ」と思ったのだ。  俺が譲らないので、ついにロワは大きく息を吐き出して、「分かった」と言った。     
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