3. 風を切って

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 中心地である鳥の王都は、竜の王都とそう異なるところはなかった。空ですれ違った鳥たちは、ここでは竜と同じように、二足歩行に腕を生やして生活している。顔付きから鷹やワシだと推測できる大型の種族から、ニワトリやコマドリ、鳩といった鳥もいた。背丈は、鳥の中でも大型の者たちが俺と同じくらい。あとは俺より小さかった。コマドリの顔の男なんて、もう十分に大人であるにも関わらず俺の腰くらいまでしかない。羽を触らせてもらうと、当たり前だが本物の鳥の羽だった。  この世界中、どこでも人間は珍しい。それどころか異質な存在だ。泊まったホテルのロビーでは大勢の鳥たちに囲まれて暫く身動きが取れなかった。しかし彼らは一様に親切で、子どもの修学旅行でこれから獣の国と海底都市の手前まで行く、と話すと「こんなに細くて羽も鱗もないのに大変だ」と心配してくれた。この世界での国境越えは、基本は翼や羽を使ってするものらしい。そうでなければ硬い鱗や、牙とか爪とか毒とか、そういった防衛機能を駆使して陸路を行くか。俺には硬い鱗も、鋭い牙も爪も、毒もないし煙幕だのそういう類のものもない。異様に心配されるのはこのせいだ。自分の身を守る術を何一つ持たない俺は、この世界では異常な種族。  大勢の鳥たちにそう言われ、不安になったのは俺ではなく、エメとプリーエルだった。  その日、ホテルの部屋に戻ると、二人は勢い良く俺に抱き着いてきた。 「ママ、危ないの? 怖い?」 「ママ、けがしちゃやだよ!」  うるうると丸い瞳で見上げられては、俺としては破顔する他ない。それぞれの額にキスをして、大丈夫だからねと抱き寄せた。この言葉は本心からのものだ。傍にロワがいてくれる安心感は、何にも勝る。     
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