間章1. まさか、まさかの

6/12
前へ
/190ページ
次へ
 その後に、どうしてだかロワが泣いた。俺がこれから受ける苦しみを思うと涙が出るのだと。反対に、俺はそんなロワを見て笑みを零していた。こんな優しさがずっと隣にいてくれるなら、何を怖がることがあるだろうか。肩を震わせる彼を抱き締めて、大丈夫だよと言い続ける夜は、夕飯の時間を忘れるほどに温かかった。  原初の森へ戻る前に、小学校の寮に入っているエメに会いに行った。電話で状況は説明したが、エメはお兄ちゃんになるのだ、きちんと面と向かって話しをしなければと思って。  事態が特別なために学校側も配慮をしてくれて、俺とロワは豪華な応接室に通された。そこでエメが待っていて、エメは俺に飛びつこうとして寸でのところで踏みとどまる。お腹に卵があることを、きちんと思い出したようだった。 「ママ、ママ、ぼくのきょーだいって、ほんと?」 「本当だよ、エメ。エメはお兄ちゃんになるんだ」 「お兄ちゃん!」  エメはもうすっかり大きくなって、俺の膝くらいまでしかなかった身長は今や腰ほどになっている。きちんとした二足歩行、正確に身につけた制服。顔も大人びて、少し前までほんの幼子だったエメは、少年の顔付きになった。  成長の過程を近くで見守れないのは寂しいが、立派に育ってくれているのはただただ嬉しい。ぎゅっと抱き締めると、エメは嬉しそうに抱き返してくれた。 「……エメ、それで、電話でも言ったんだけど、ママはこれからヘビの国に行って手術をしなきゃいけないんだ」 「しゅじゅつ……、どれくらいで終わるの?」     
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

900人が本棚に入れています
本棚に追加