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ノエの悲鳴が響いている。私は耳も目も塞ぎたかったが、これを見届けるのが自分の義務と思って懸命にノエを見上げていた。無数の蔓に四肢を捕らわれたノエは苦痛に顔を歪めながら、それでも逃げようとはしなかった。
軽率にノエと身体を繋げた自分を恨んだ。エメがいるだけで充分に幸せだったじゃないかと、過去の自分を激しく責め立てる。もう儀式は終わったのだから大丈夫だと高を括っていた。こうなったのは私の落ち度だ、こんなにノエを苦しめて。
意気地なくも涙が出て来て、ノエ、と絞り出す声で彼を呼んだ。
届くはずも無い声は、彼の瞳を開けさせて。
「……っ」
ノエは微笑んだ。
苦しみながらでも、しっかりと、私を見下ろしてくれた。
卵がゆっくり、ゆっくりその姿を現す様子を、私はただただ、奇跡を目の当たりにするように見つめていた。蔓が引きずり出したその真っ白な生命の殻。ノエの悲鳴が一際強まる。私は目を逸らせなかった。彼の汗が、涙が、祭壇に落ちていく。その度に、卵はだんだんと空気に触れて。
自己嫌悪も後悔もその時は頭から吹き飛んだ。
頑張れ、ノエ。私の中にあるのはそれだけだった。それだけをただ願った。それだけしかできないのは歯痒かったが、この思いはきっとノエに届くのだろうと信じた。
気が遠くなるほどの、数十分。
卵はついに、産まれた――
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