6. 海底都市

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「……〝最果ての神殿〟というのは、海底都市を越えた向こうにある、トーリオメリスの神殿です。何を司っているのかとか、そこで王が何をしているのかとか、そういったことは僕には分かりません。だけどノエさんはそこにいます。トーリオメリスと共に」 「何故それが分かる?」 「この目で見ましたから。トーリオメリスの脚が神殿より伸ばされ、落ちてくる人間の身体を絡め取るのを……。それからこの耳で聞きました。彼がその人間と、会話をするところ……」  話しながら、ヒロはどんどんと沈鬱な表情になっていく。  ついには黒の瞳に涙の膜まで張ってしまい、私たちが慌てる側となった。  海面にぽたりと雫が落ちるので、優しいエメとプリーエルが腕を伸ばしてヒロの頭を撫でてやる。濡れている髪はすぐに乱れ、しかしヒロはごしごしと自分の腕で涙を拭うと、ごめんなさいと呟いた。  何に対する謝罪なのかは分からない。私はこの青年が今にも沈んでしまいそうな気がして、焦りながらも問いを重ねる。 「そもそもあなたは何故、私たちにそれを伝える? 私たちはノエを助けたい。それが不可能であると、何故わざわざ伝えに来た?」 「つ、伝える気はありませんでした。ただあの人間が何処の誰なのか知りたくて……、でも、でも聞いてしまったんです、あなた方の話を。あの人間に、陸に居場所があるなんて思っていなくて、そうしたら、いてもたってもいられなくて……」     
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