8. 悲願

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8. 悲願

 トーリは俺の顎を掴み、強引に唇を重ねようとした。しかし俺が身を捩って拒んだので、はたと動きを止める。 「なぜ拒む。俺の子を孕めば地上に帰してやると言っているんだ」 「ちょ、ちょっと予想外すぎて……。お話は聞くだけ聞く、と言いました。それを俺に願う理由を言ってください、そうじゃないと納得できない……」 「ふん、理由か。それに正当性があればお前は大人しく俺に犯されるのか?」 「…………」  そんなことはあり得ない。俺はロワ以外に身体を預けるつもりはない。だからこれは単なる時間稼ぎにすぎないのだが、やはりトーリにはお見通しか。服の裾から差し入れられた脚に腰を撫でられ、俺はぶるりと震えた。  こんな状態では逃げられない。少し蒼褪めた俺の顔色を知ってか、トーリはくつくつと喉奥で笑う。 「愛い反応をするじゃないか。いいだろう、興が乗った。話してやろう。――あの人魚たちは、人間だった」 「人間……だった……?」 「不幸にもこの世界に招かれてしまった魂たちだ。ここで暮らすためにあの姿になったに過ぎん。思い出せ、聡明な人間。お前はどうやってこの世界に来た?」     
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