9. あるべきかたち

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9. あるべきかたち

 俺はロワの言葉を聞いたことがない。声は、知っている。しかしそれは俺には呻き声というか、低い鳴き声にしか聞こえない。エメやプリーエルも、嬉しい時や悲しい時に、きゅっきゅと鳴く時がある。それは人間には無い声で、言葉としての意味も、たぶん無い。それから子供たちが歌う歌は、どうしても聞き取れない。分かること、分からないこと。俺がこの世界でエメやプリーエルの言葉だけでも理解できること自体が、奇跡のようなものだと思っている。だから高望みはしない。どうして分からないんだろうと悩みはしない。  だけど、憧れが無いかと言えば、嘘になる。 「俺を竜に……? そんな……そんなことが……」 「できる。竜にするくらい造作もないことだ。そうだろう、マリア」 「造作もないというか、研究と努力の結果だが。まあ、この世界の生き物にするというなら、できる。この世界の生き物にならな」  念を押すような、疲れの滲む声だった。  何かを人間にしようと試みたことがあるのではないだろうか。この海底都市の王の悲願の為に。それは失敗した。しかし、その過程で、他の生物への転換が可能であると証明されたとしたら。     
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