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10. 事の結末
ノエには本当に外傷はなく、長く拘束されていたのであろう手首には少し痕がついていたが、それもすぐに消えそうだったので私は心の底から安堵した。漸く腕の中に収められた小さな身体が、いつも以上にどうしようもなく愛しく感じる。私の元へ戻って来てくれた、強く美しい私だけの妻。
愛してやまない母親に抱かれた子どもたちも嬉しそうで、そして誇らしげだった。ママを守った、と胸を張り、ノエに優しくキスを落とされて、きゅっきゅと喜ぶ。
あるべきかたちを取り戻した私たち家族の一方で、人間の姿に戻ったトーリオメリスはヒロを前にして明らかに動揺していた。
「な、泣くなヒロ……、なぜお前が泣くというんだ……」
「バカ、分からず屋、冷血漢、最低の男……」
さっきまでノエを捕らえてこの海を震わすような声を発していた男と同一人物とは思えない。トーリオメリスは泣きじゃくるヒロに散々に罵られながら、それに反論できずにいる。
『――――』
「あの人? あの人はね、トーリオメリスの妻、って言ってたよ」
ノエがヒロの素性を聞いたのだろう。エメが答えてくれる。すると、ノエは驚いたような顔をした後に、呆れ顔で笑ってみせた。
『――、――――』
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