4. 盗まれた

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4. 盗まれた

 眼下を過ぎる、遥かな草原。  巨大な馬たちが群れを成してどこかへ駆けていく。彼らを追う風が草をなびかせ、大地に一瞬の線を描く。それはやがて遠くに見えるコヨーテの耳を擽るだろう。  ロワの腕から眺めるその景色は、どれも俺には話でしか聞いたことのなかったもの。大きな腕に包まれて、そして自らの腕で我が子を抱いて、俺は旅をしている。  地平線の向こうに陽が沈み始める前に、ロワはエメに声をかけて降下を始めた。エメは今日、飛びっぱなしだ。流石に疲れたのか、速度が落ちている。ロワは頭の中の地図をちゃんと確認しながら飛んでいたようで、俺たちの目の前には広大な森が広がっていた。  獣の国に入ってから、今日で三日になる。  水平線も既に見えていた。森の向こうに青い線。ロワの翼で、全速力で数時間も飛べば、目指すべき海岸線に辿り着けるに違いない。  森の上を少し過ぎ、ロワは見つけた水辺に向かって降りた。陽光を受ける湖面が眩しい。 追って着地したエメは、ぽてりとロワに寄り掛かった。 「エメ、大丈夫?」 「うーん……ちょっと疲れた」 『――――、――』 「ほんと? ママ、僕いっぱい飛べたって!」     
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