7. 求める

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 神殿に戻された俺はまた両手足を海藻のようなものに拘束された。神殿の中央に繋がれた俺は、周囲を漂うように泳ぐトーリを目で追う。彼は少し思案をしている顔で、やがて俺の正面に戻ってきた時には、その黒の瞳で真っ直ぐに俺を見つめていた。 「人間。名を聞いていなかった」 「……ノエ・アントワーヌ」 「ふむ、どこの生まれだ。ヨーロッパとかいうところか」  この世界で、随分と懐かしい言葉を聞いた。 「そうです、フランスが故郷……。あなたはどうして俺の世界のことを知っているんですか?」 「聞いて知った。お前、この世界に連れ去られたということは一度死んだな? 何故死んだ。自殺か」 「……過労死です。孤児院で、無理のし過ぎで……」 「なんと。痛ましいな。まあ、そんな事情か事故死でなければ、竜どもの爪にはかからんだろうな」  彼の言っていることが、上手く理解できない。  表情も口調も冷淡でありながら、蔑ろにされている気はしない。少し近付いてきたトーリは俺の頬をするりと撫でて、「傷の残らん死に方でよかったな」などと声をかけてくる。真意が分からない。それに、俺の世界の話を「聞いて知った」とはどういうことか。  誰から聞いたのか。     
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