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濃紺の空を星が流れていった。
わずか一秒にもみたない僅かな光。
尾を引いて輝くそれは、いくつもいくつも夜空に煌めいた。
あまりの美しさに目を奪われていると、凛子は少し口元を緩ませて「見れて良かった」と言った。
「そうか、今日は流星群の日だったか」
いくつもの流れていく星達の輝きを見て、ニュースでそんなことを言っていたのを思い出す。俺の呟きに凛子は頷く。
「ここまでこないと、きっと見えないって思ったから」
星を見上げるにしても、民間の明かりのせいで折角の流星群が綺麗に見えないのだという。確かにここには余計な明かりが何もなく、そのまま星明かりが降り注ぐようだった。
「流れ星になりたい」
突拍子もない上に短すぎる凛子の言葉を理解するには時間がかかる。
どういう意味だと考えようとしたところで凛子は珍しく付け加えをした。
「流れ星はみんなに嫌われたりしない」
それでも凛子の言葉は短かった。
けれども言葉の意味を理解するには十分すぎた。
俺はずっとこいつは何も考えずにまっすぐだと思っていた。自分の考えを貫くから悩みもないのだと思っていた。
でも本当は違った。
こいつはこいつなりに悩んでいた。
真っ直ぐであり続けるのは難しい。
流れ星だってあんなに真っ直ぐに輝くのに、僅かな一秒にも満たない間に跡形もなく消えてしまうのだから。
俺は空を見上げた。
まるで大地に星が降り注ぐみたいに、尾を引いて流れていく星達。その輝きは凛子のようだとも思ったけど、やっぱり違う。
「お前は流れ星にはなれねぇよ」
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