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凛子はこんなにすぐに消えてしまうような儚い光じゃない。
そんな弱いものじゃない。
「お前は彗星だ」
凛子は俺の方を見て目を見開いていた。
「彗星…」
たどたどしい口調はいつものこいつらしくはなかった。迷子になった子どものような、頼りない声だった。
「流れ星が好かれるのは、それが自分の願いを叶えるための方法だからだ。知らない誰かの願掛けになって、すぐに忘れられてしまう」
一瞬の煌めきも輝きも、目を奪われるほど美しい。けれどその光は煌めいたときには既に砕け散っている。
いわばその星の終わり。星の死。
流れ星は死の間際に名前も知らない誰かから願いを掛けられて消えていく。願い事をした人々はその死すら悼むことはしない。否、星が死んでいることすら気づかない。消えた星の名前さえも知らないで、ただこう思うのだ。__ああ、綺麗だな、と。
そんなのあまりにも理不尽で、あまりにも哀しい。
「だけど彗星は名前がある唯一の存在だ。自分だけの軌道でいつまだって回り続けて、いつまでも見えなくなるまでずっとずっと人々は見上げる」
俺はまっすぐに凛子を見据えた。
「だからお前は彗星になれ」
言い切ってから急に恥ずかしくなって凛子をちらりと見ると、ぽかんとしたあっけにとられているような表情をしていた。
しくじった。
くさい言葉を言って失敗したときみたいな羞恥心が体中を駆け巡る。言わなきゃ良かっただろうか、いやでも凛子が流れ星になってしまったらそれはそれで困るわけで。
恥ずかしさに耐えられず俯いたときだった。凛子が「いいね、それ」といつもの口調で言ったのだ。
はっと顔を上げると、そこには口角を上げて微笑む凛子がいた。
「彗星になる」
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