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船宿で
雨はやみ始めていたが、水溜りはそこここに残っていた。刻限は七つほどだが、視界は悪かった。道のかたわらを通る川の水は黒く水かさを増し、暗く沈んだ道を歩く一人の男の姿があった。
傘をかぶり、脚絆を履いた足で泥の道を歩いている。
男の後ろから、もうひとつ、道を歩く人影があった。前の男より小柄である。
二人の進む道の先には、船宿の看板を掲げた小屋があった。前にむしろがたてかけてあり、雨を凌いでいる。
先を歩いていた男はそのむしろの中を覗き込んだあと、船宿の中に入る。
船宿の中には、幾人かの客がいた。
土間の上にむしろを敷き、幾人かの客が座っている。
奥には板の間もあり、そこにも客がいた。
板の間の客たちの前には徳利と酒の肴が置かれている。
この船宿は、渡し船のために客を待たせるだけでなく、釣り客のために飯も提供しているのだ。
増水した川に遊びに来るものはいないので、肴を囲む男たちも他の客も、雨が降り、欠航になった渡し舟が再開するのを待っていると思われた。
入ってきた男は、客の様子を眺めたあと、傘を取る。現れた顔は二十歳をいくつか超えたあたりだ。
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