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若い男は、にこりと笑うと、板の間の中に肩膝をあげて入り込み、奥に置かれた杯に酒を注ぎ、鷲鼻の男に、屈託なく笑いかける。
「ま、お近づきの印に。おいらは、銀二ってもんなんですよ。職人でさぁ、品を届けに行った先で雨にふられちまって。へへ」
どこを見ているのかわからない顔で、鷲鼻の男は酒をぐびりと飲んで、口角をあげた。
「オレは、良郎だ。こいつは佐吉。そいつはごろぞうだ」
言った瞬間。
「いてぇっ」
ごろぞうが大きな声をあげる。
「何だぁ?おいあんま、お前何やってんだ?」
佐吉と言う男が眉毛を剣呑にゆがめるのを鷲鼻の男・良郎がいなした。
「やめとけ、そいつは体の割りにはもともといてえのいてくねえのいろいろうるせえんだ」
あんまはもそもそと手を動かした。するとふわぁぁぁっと今度はごろぞうは心底気持ちよさげな声を出す。
「気持ちいいか?ごろぞう」
「きもちぃぃ」
床一面に伸びた大きな体は本当に気持ちよさげに弛緩している。
「ほら、ほっとけって言ってるだろ」
良郎が、杯を開けたのを見ると、銀二はすかさずに、二杯目を注いだ。
「気持ちよさそうですねぇ、オレもやってもらおうかな?」
銀二は、言って肩を揉む動作をする。
「飾り物職人なんでね、ほら最近のはやりはやたらひらひらしたかんざしだから肩が凝るんで」
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