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「佐吉、外を見て来い。この様子だと他に仲間がいるかもかもしんねぇ」
佐吉は立ち上がり、油断なく目を配りながら立ち上がる。
良郎の視線が佐吉の方を向いているのを見た銀二は震える手を胸に伸ばそうとしたが、
「うっ」
切っ先が抉られ、うめき声をあげる。
良郎の目線は相変わらず佐吉の行った方に向いてはいたが。
「手を突っ込んだら、横に切り裂く」
銀二は動きを止め、良郎の頭を見た。確かにこちらを向いているのは頭が後ろ側なのだが。ふっと、良郎が銀二をあざけるように笑った。
「見えてるのかって思ってるんだな、見えてるさ」
銀二の目の前には良郎の耳がある。通常ならば、良郎が見えるはずはない、通常ならば……。
「……オレの父親は、毎日のようにオレを殴っていたが、あの日は特にひどくってよ。頭掴まれて、板間のへりに何度もうちつけられたんだ。血が出たぜ。その後、しばらく額が腫れて目が見えなくなってよ。そんで、ようやく見えるようになったら、前と違ってよ。目に映るものが総てゆがんでやがるんだ」
そこで、良郎は、のどから奇妙な音を出した。どうやら笑っているらしい。
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