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昼休みになると田中は、バッグの中からビデオカメラを取り出した。
「一昨日、お前の誕生日会をやったろ」
「あー、あいつら勝手に帰りやがって!」
「あの時、俺が記念にお前らをビデオ撮影していたんだけど、家に帰って録画を見直したら、ちょっと変なものが映っていたんだ。それを見てくれないか」
そう言うと、田中はビデオカメラの再生ボタンを押した。
それは、居酒屋の場面から始まった。
「タカシ誕生日おめでとう!」
葵の一声で乾杯が始まる。
予約しておいた席の周りには、見知らぬ男女や仕事帰りのサラリーマンが普通に映っている。
その中で、俺達は次々と運ばれてくる酒や料理を楽しみながら、盛り上がっている様子が映っていた。
「別に、おかしいところなんてないだろ?」
「もう少しで映る。ほら、ここ!」
そう言って、田中は突然ビデオカメラの一時停止を押した。
「この男だ。こいつ、ずっとこっちを見てる」
停止した画面には、酒を飲みながら大笑いしている俺達が映っている。
田中が指を差す先、俺達から少し離れた奥のテーブルに、一人で座っている中年のサラリーマンらしき男が映っていた。
確かに、男はこちらをじっと見つめているように見えた。
「俺達がうるさかったからじゃないか?」
「お前、この男を店で見たか?」
「覚えてないよ。他の客の事なんて。気にし過ぎじゃないか?」
「ずっとなんだよ。こっち見てるの」
そう言って、田中は再び再生ボタンを押した。
田中が言う通り、確かに映像に映っているその男は微動だにせず、何かを飲んだり食べたりしてる様子もなく、ただただビデオカメラの方をじっと見つめていた。
男の顔は、ズームにしてもよく見えない。
ただ、男の体の周りにもやもやとした黒い霧のようなものが見え、その姿に気味の悪さを感じた。
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