映像の中の男

3/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
昼休みになると田中は、バッグの中からビデオカメラを取り出した。 「一昨日、お前の誕生日会をやったろ」 「あー、あいつら勝手に帰りやがって!」 「あの時、俺が記念にお前らをビデオ撮影していたんだけど、家に帰って録画を見直したら、ちょっと変なものが映っていたんだ。それを見てくれないか」 そう言うと、田中はビデオカメラの再生ボタンを押した。 それは、居酒屋の場面から始まった。 「タカシ誕生日おめでとう!」 葵の一声で乾杯が始まる。 予約しておいた席の周りには、見知らぬ男女や仕事帰りのサラリーマンが普通に映っている。 その中で、俺達は次々と運ばれてくる酒や料理を楽しみながら、盛り上がっている様子が映っていた。 「別に、おかしいところなんてないだろ?」 「もう少しで映る。ほら、ここ!」 そう言って、田中は突然ビデオカメラの一時停止を押した。 「この男だ。こいつ、ずっとこっちを見てる」 停止した画面には、酒を飲みながら大笑いしている俺達が映っている。 田中が指を差す先、俺達から少し離れた奥のテーブルに、一人で座っている中年のサラリーマンらしき男が映っていた。 確かに、男はこちらをじっと見つめているように見えた。 「俺達がうるさかったからじゃないか?」 「お前、この男を店で見たか?」 「覚えてないよ。他の客の事なんて。気にし過ぎじゃないか?」 「ずっとなんだよ。こっち見てるの」 そう言って、田中は再び再生ボタンを押した。 田中が言う通り、確かに映像に映っているその男は微動だにせず、何かを飲んだり食べたりしてる様子もなく、ただただビデオカメラの方をじっと見つめていた。 男の顔は、ズームにしてもよく見えない。 ただ、男の体の周りにもやもやとした黒い霧のようなものが見え、その姿に気味の悪さを感じた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!