第1章 "誕生編"

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 普段と何ら変わらない昼下がりというのは、あまねく存在する物語の冒頭としてはよくある話だ。しかし、よくあるということは、言い換えればそれだけ多くの人間が普段と変わらない毎日を平穏に過ごせているということでもあるといえるだろう。  普段が平穏だからこそ、突然訪れる非日常というものがより際立って見えるのだから。 ・・・  数日前、嫌になるほどしんどい高熱を出し寝込んだことで、学校を休まざるを得なくなってしまった青年・大黒龍真(おおぐろ りょうま)もまた、平穏な日常を享受していた。 「はぁぁぁぁぁ...健康って素晴らしい」  ようやく元気になった身体に喜び、そんなことを呟く始末。健康なのはいいことだが、少しばかり舞い上がっている節が見えるのはご愛敬といったところだろう。  それはそれとして、病気が治れば学生は学校へ行かなければならない。無論、一定の例外はあるにせよ、大多数の学生がそうしているだろうし、彼もまた例外ではない。久方ぶりではあるが自らの学び舎へと歩みを進めていた。 「...おはようーっす。ってあれ?」  学校に着き、いつも通り自分の教室に来た彼が目にしたのは、誰もいない教室だった。普段からそれなりに早い時間には登校している彼だが、そうはいってもだれよりもぶっちぎりで早いとまで言えるほど早いわけではない。いつもだいたい誰かしら先に居るのだが、病み上がりの登校日である今日は珍しく教室に人の姿が欠片も見当たらない。  一応、と壁にかかった時計を確認する。朝のホームルームの大体10分前といったところの時間帯。やはり誰かしらいるはずの時間だ。まさか、自分がかかったような病気が蔓延して学級閉鎖?と考えるも、すぐにそれはあり得ないと一蹴する。なにせ病院で特に何かにかかったわけでもなく、たぶん風邪じゃないか?とフワッとした診断を受けるような病気だ。そんな病気がクラス中に蔓延しているはずがない。そもそも、学級閉鎖なんていう連絡を受けていないのだから、その可能性は皆無なのである。
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