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「はてさてどうしたものか...帰っても...いや、それはまずいか。そういや、家を出る前、母さんがなんか言おうとしてたな。もしかしてこれの関係か?あぁ、ちゃんと聞いときゃよかった」
教室に一人しかいないからと、独り言が止まらない。そんな時、ふと見たクラスメイトの席。特に何かあるでもない何の変哲もない机と椅子だが、そこから目が離せなくなった。傍目から見れば学校の机ならこんなものだろうと思うような光景だが、今この時に限っては違和感が拭えない。
それは特に変わらないようでいて、気づいてしまったら最後、何かが致命的に変わってしまうような、そんな違和感。
彼の背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
一度脳裏に焼き付いた違和感は、そう簡単になかったことにはできない。知るべきか否か、彼の頭を回り続けるその問いの答えを導き出すべきなのか、自問自答は止まらない。
そんなとき、教室前の廊下を一人の先生が通りかかった。先生は何気なく教室の中を覗くと、教室に一人龍真がいるのを目にし、ひどく驚いた様子を見せた。先生は、慌てて教室の中に駆け込んでくる。彼の目の前まで走り寄ると、いの一番にこう切り出した。
「お、お前!だ、大丈夫だったのか!?いや、そんなことより、みんなとは連絡取れたりしてないか!?」
その言葉が、彼の抱いていた違和感の正体を暴き出す。まるで足りていなかったパズルのピースがきれいに埋まったかのように。全くもって理解不能、意味不明。そんなことが現実にありうるはずがないのに、目の前の光景がその事実を幻想などではないと、否応なく思い知らせていた。
「誰もいないのに...なんで荷物があるんだよ...」
思わず言葉が漏れる。誰もいない。席を外しているわけでもない。それなのに、荷物だけがあたかもついさっきまでそこに誰か居たかのように置かれている。
しかも、目線の先にある席だけではない。彼以外のクラスメイト、すべての席がそうなっているという現実を受け止めきれない。
「は、はは...なんの冗談だよ、これ...」
まるで、自分がいない間に神隠しにでもあったかのような、そんな錯覚を覚える。表面上は必死に冗談だと思い込もうとしても、本能が理解してしまっていた。
このクラスに誰かが来ることはありえない、と。
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