0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は林檎持ったまま動けなくなってね。耳を澄ましていたの。
そうしたら今度は、キッチンから音がするじゃないのよ。
金物を動かしているような音が。
友だち? そんなモノいないわよ。
私に興味示すモノ好きは、あんたくらいだからね。
で、恐る恐るキッチンに行ったの……。
そうしたらね、なにがあったと思う?
答えは「孫」、孫!
まだ中学生だっていうのに、やさしい子でね。私のためにシチューを作ってくれた。
「今日はやさしいんだね」
いつもの調子でイヤミを言ってしまったらね。
「ママが行けっていうから、きたの」だって。
にくったらしいったらありゃしない。ふふふっ。
それで別れ際に「あ、忘れてた!」って、小さな紙袋渡されたの。
なかには、毛糸の帽子が入ってた。耳まで隠れる、ふかふかの帽子。
「これは、どうしたの」
「ママから、誕生日おめでとうだって」
そう私は昨日、85回目の誕生日だったの。すっかり忘れて熱なんて出してた。
びっくりして娘に電話したら、大笑いしてこういうのよ。
「林檎は体に良いからすって食べてね」
だって。
娘が小さい頃、よくすってあげたのよ「すりおろし林檎」を。
娘のためにすった林檎は、真っ赤になって帰ってきたんだねぇ。
もうこの歳だと誕生日なんて鬱陶しいと思ったけれど……。
ありがたいねぇ。
最初のコメントを投稿しよう!