朱の記憶 《R18》

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「……は、ぁ……っ」  ナイフを突き立てた左胸から、小さな血の玉がぷくりと浮いた。  私が振り下ろしたそれは、寸前で勢いを落とし、刃先がほんの少しかすっただけだった。進藤の胸にごく僅かな傷を付けただけだった。 ――今さら何を迷っているの。何を怖気づいているというの。  目をつぶり、深く息を吐く。  このまま、力を込めればいい。  体重をかければ、女の力でも確実に殺すことが出来る。  柄をぎゅっと握り直す。  ただこのまま体重をかけるだけでいい。目は瞑ったままでいい。  そうすれば、この男を殺せる。  殺せる、のに。 「……どう、して……」  それなのに、どうして出来ないの。どうして手が動かないの。  この男が、父様を、母様を殺した。  この男が、私を娼館(ここ)へとおとしこめた。  この男が、私から全てを奪った  全て。全て全て、この男が。
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