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「……椿」
開かれた目が、私へと向けられた。
深い漆黒が私を射抜く。
それは、薬になど犯されていない、力のこもった瞳だった。
あの薬は効かなかったのか。一晩は起きないと言っていたのに。
……ああ。やっぱり、喜助になんて頼むんじゃなかった。どうにかしてでも、自分でちゃんと用意するべきだった。
ぎり、と奥歯を噛み締める。
「……いつから起きてたの」
取り繕う必要はもうなかった。
つっけんどんに聞いた私に、進藤は何も答えない。
ただ私を見つめたまま、私の手を今度は反対の手でも覆う。
「え……? なに……」
進藤の両手が私の手を覆ったまま、下方へと力を込めた。
ぐっと力を加えられ、突き立てた刃が進藤の胸へと沈む。
「え……。あ……、や……っ! やめ……」
咄嗟に手を離そうとしたが、進藤の手に抑え込まれそれは叶わなかった。あまりの力の強さに、振り解くことが出来なかった。
柄を握ったままの手に、指に、刃が肉へとめり込む感覚が伝わる。
「……っ」
進藤の顔が苦痛に歪む。
呻き、咳き込む。
進藤の手は震え始め、力が抜け、そして、私の手は解放された。
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