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「……つ、ばき……」
進藤が私へと手を伸ばす。
「……椿、ごめん。……ごめんな」
伸ばされた手は、頬に触れる前に、下へ落ちていった。
「……なん、で……?」
両手で覆った口から、言葉がこぼれ落ちた。
こぼれ落ちた声は、手は、唇は、身体中全てが震えていた。
「なんでっ、なんでよ……っ」
どうして起きていたのに逃げないの。どうして自分から殺されようとするの。
「なんで……っ!」
どうして。
どうして。
どうして、涙が出るの。
頬を涙が伝っていた。
次から次へと溢れ出てくる涙が、自分の裸の胸を、進藤の胸をも濡らしていく。
破瓜の時も棒で打たれた時も、客にどんなに乱暴にされようと、どんなに優しくされようと、決して泣かなかった。
泣けなかったのに。
「どうして……」
こんな男、死んで当然のはずだ。
こんな男、殺されて当然のはずだ。
ずっと殺したいと思っていた。
ずっと憎くて仕方なかった。
それなのに。それなのに、どうして私はこんな気持ちになっているの。
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