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あの日、進藤は私を見逃した。
男たちが寝室へ押し入ってきた時、母様は暗闇に紛れ私を押し入れへと隠した。
目の前は真っ暗で、僅かに開いた隙間からは何も見えなかった。
ただ音がしていた。何かが壊れる音、割れる音。怒鳴り声、叫び声。
そして、血の匂いがした。
永遠にも一瞬にも思える時が過ぎ、照明が灯された。部屋を物色するためだろう。
動き回る男たちの足元、折り重なるように両親が倒れていた。床は、両親は、真っ赤に染まっていた。
進藤は他の男たちが部屋を出たあとも、一人最後まで残っていた。
進藤は倒れている両親を、立ち尽くし見ていた。
母様に押し込まれた時、ぶつかった拍子に中の箱が倒れ、中身が飛び出ていた。その中にあった古い包丁が、私の手にずっと当たっていた。
私はそれを手に押し入れから飛び出し、立ち尽くしたままだった進藤の背中へと、それを突き立てた。
振り返った進藤は、恐ろしい顔で私を睨み付けた。叫び声を上げそうになった私の口を塞ぐと、私を担ぎ上げもう一度押し入れに押し込み、そこから立ち去った。
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