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「……もう一人は嫌……。嫌だ……」
突き刺さったままのナイフを両手で掴む。
力を込め、進藤の胸からそれを引き抜いた。
刹那吹き出す血が、私の視界を、私の顔を、私の身体全部を真っ赤に染め上げる。
赤。赤。朱――。
その時、視界の端を白色が過った。
そちらを見ると、窓の外でちらちらと雪が降っていた。雨はいつの間にか止み、雪へと変わっていた。
窓を開けると、小さな白い粒が部屋へと舞い込んでくる。
「綺麗……」
真っ暗の中、無垢な白が、はらはらと舞い落ちる。赤く濡れた手の平にも、白い雪がはらりはらり。
夜闇に浮かび舞う雪は、まるで白い花のよう。
「……ああ、そうか。進藤様は、最初から気付いていたのですね」
いや、気付いて、じゃなくて、わかっていてここに来ていたのか。
私が自分達が殺した夫婦の娘だと、最初から。
たまたまその娘が売られた店に来て、たまたまその娘を気に入る。そして、通い続け、身請けまでしようとする。
そんな偶然、ある訳などなかったのだ。
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