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「……そんなことに気付けなかったなんて、私は馬鹿ですね」
ああ、そうだった。
私は抜けていると、よく両親から言われていたんだった。そんなことすら、今まで忘れていた。
目をつぶる。
瞼の裏、そんな私をいつも優しく見守ってくれていた、父様と母様の顔が浮かぶ。
「父様、母様……。私も……雪も、もうそっちに行ってもいいですか……?」
私はきっと、地獄に落ちるのだろう。
だけど、この地獄以上の地獄などあるものか。
目を閉じ、血でぬるんだ刃を、首に当てた。
首に当たる感触に、手が震え、歯はがちがちと音を鳴らす。
あんなに死にたいと願っていたのに、私は死ぬのが怖いのか。人を殺しておきながら、死にたくないとでも言うつもりか。
震えが治まるよう、奥歯をきつく噛み締める。
――ああ、誰か私の首を落としてくれたらいいのに。
ぼとりと首から落ちる椿のように。
きっと、それ以上に私に似合う死に方はないだろう。
柄を両手で強く握り直し、力一杯引き抜いた。
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