朱の記憶 《R18》

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 両親を物盗りに殺され、一人娘だった私がここに売られたのは十になった頃。  長く続く呉服屋を営み裕福だと思っていた家は、実情は火の車で、方々(ほうぼう)に借金があったらしい。その上、借金の足しになりそうな目ぼしいものはその物盗りに盗られており、気付いた時には、ここの門をくぐらされていた。  数人いた男たちは、誰一人捕まらなかった。  下働きから始まり、朝早くから夜遅くまで働かされた。  休みは与えられず、両親を思い出して泣く時間さえくれなかった。悲観にくれて仕事を疎かにしようものなら、折檻された。  客を取るようになっても、それは変わらなかった。  朝から晩まで、ただ足を開く毎日。嫌な客でも良い客でも、等しく足を開き身体を晒した。  こんなところに来るのだから、当然嫌な客は多い。その中で、私たちを気遣い労ってくれる良い客も優しい客もいたけれど、でも、乱暴だろうが優しかろうが、そんなことはどうでも良かった。  両親を目の前で殺され、娼館に売られ、これ以上の不幸なんてあるはずがなかった。  何もかもどうでも良かった。  痛いのも、苦しいのも、どうでも良かった。  ただ早く時が過ぎ去ることを願っていた。  ただ早く死にたいと思っていた。
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