23人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
謁見の間を出ると、ペルーラ付きの侍女が待っていた。
「何があったのです?」
「浜に貝殻を拾いに行った時にアザレア様の銀のペンダントを海に落とされてしまわれたのです」
黒髪で色白の若い娘は紺色のお仕着せの胸もとのボタンを握りしめて、辛そうに言った。
「どの辺りで?」
「北の岩場近くです」
お付きの者たちは都から連れてきていて、沿海州の者は一人もいないが、ミディの海についてはよく知っている。
シルバードラゴンの縄張りでなくても海に銀を落としたら拾わない。
しかも北の岩場はシルバードラゴンの縄張りだ。
「大公様から王子宮への入室のお許しをいただいています」
促されるままに王子宮へ向かった。
7年ぶりだろうか、久しぶりに入る部屋。
かつて自分と叔母が使っていた部屋は、白いレースをふんだんに使ったふわふわした装いになっていて当時の面影はない。
侍女長の趣味だ。
それもすべてアルフ商隊が手配した家具だった。
「あちらに…」
レースの天蓋付きベッドに、カールしたプラチナブロンドの髪が見えた。
アルフは意識してゆっくりとベッドに近付いた。
恋しくて切なくなるから会いたくないが、会うとやはり嬉しい。
泣いている理由を考えると悲しいが、ウキウキとしてしまうのは止めようがない。
喜びを侍女に気付かれまいと口元を引き締めようとしたが、かすかに笑みが浮かんでしまう。
姫に会うのは8ヶ月ぶりになるだろうか。
いやそれは新年の挨拶で親戚一同が集まった時に姿をみただけのことだ。最後に言葉を交わしたのは一年前かもしれない。
ペルーラの小さな肩が震えている。泣いているのだろう。
愛おしさに切なくなる。
ベッドの傍らに膝をつくと、そっと声をかけた。
「ペルーラ…」
最初のコメントを投稿しよう!