ホテル・ラマルタの中庭

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 ホテル・ラマルタの中庭がいつになく賑やかなのは、炎の商人の異名を持つアルフの商隊が大公様のお屋敷から戻ってきたからだ。  ここ沿海州デルマール自治区エスメラルダ公国領のミディ地区は港からも関所からも外れているため商いに向かず、いつもは閑散としているのだが、大公様のご別邸にご一家が海水浴にやってくるこの時期だけは市が立ち、近隣のどの町の賑わいにも負けない。  しかしアルフ商隊の扱う高級品は市には並ばない。アルフはご一家の予定に合わせてやってきて、ご滞在に必要な品々を直接運び、滞在中は何度も行き来する。反面、お屋敷に誰もいない時にはこの町で商いすることはない。年に何度かやってくるも、ミディは単なる通過地点であり、時には休憩だけで一泊もせずに立ち去ることもある。  寂れたミディ地区にあるホテルはラマルタが1番大きく、三階建てである。もちろんその広さはお屋敷には到底敵わない。  中庭を囲うように配置された建物の北棟は納屋と宿の主の生活棟で、一部、間借人に貸し出している。通りに面した西棟の1階は食堂を兼ねた酒場、その2階、3階と東棟、南棟が宿になっている。
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