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最後に大公に会ったのは春。都の郊外の別邸における花見の手配を担当した時だった。
会った…と言えるのだろうか…。
謁見の間に通されたアルフを大公は見ない。そしていつも同じ言葉を呟くだけ。
「よい」
それだけで侍従に退出を促される。
散々待たされたあげく、一瞬で終わる謁見。
顔を出さなければ催促があるというのに…。出せば出したで蔑ろにされてるような扱い。
エスメラルダの人間は赤毛を忌み嫌っている。悪魔の子だと言われて育った。
そんな自分を大公家の近くに引き止めておきたいのはこの人ではないとアルフは強く感じていた。
赤毛を嫌う以上に、アルフに関心がないのだ。
誰が自分を引き留めているのかしらないが、それが誰であってもやめさせることが出来るのは大公だ。
俺に興味がないのなら、大公の権力で解放してくれ、と叫びたくなる。
しかしそうできるということさえ興味がないのだろう。
ところがこの日はいつもと違った。
屋敷に着くなり待たされるどころか慌ただしく謁見の間に通されると大公が話し出したのだ。
「ペルーラに会ってやってくれ」
相変わらずアルフの顔をみないのだが、いつもは無表情な顔が強張っている。
「…どうかされたのですか?」
問い掛けても大公は顔を逸らしたまま…。
こちらを向かないのは赤毛を見るのは縁起が悪いとでも思っているからかも知れない。
この男の横顔しか見たことがない気がする。
白髪混じりでもうじき60になる。身なりばかり立派で冴えない男。ペルーラにとっては異母兄になるが、祖父と孫にしか見えない。
どういう気持ちかはわからないが、ペルーラを大切に扱ってくれているのは間違いない。
「散策から戻ってずっと泣いている。誰の言葉も聞かない。何も食べず、泣くばかりでお手上げだ」
ペルーラが泣いていると聞いて、アルフは退出を促されるのも待たずに退いた。
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