好きになれない 【1】

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「来てくれて、ありがとうね」  なんだか声が出なくて、日和は無言で頭を下げた。  逢えて良かった。そう思う。心から。けれど、もしかしたら、それは真木が口にした純粋な意味合いとは違うものになっているのかもしれない。  バンガローに戻るかと言う真木の誘いに、もう少ししてから戻ります、とやっとの思いで答えて、その背中を見送る。暗闇にその姿が消えてから、日和はずるずるとしゃがみ込んだ。頭を抱えたいような、叫び出したいような、そんな気分。 「……マジか、俺」  だが、そうであれば、すべてに納得がいくのだ。なぜ、あれだけ羽山に敵愾心をむき出しにしていたのか。なぜ、出不精だったはずの自分があれだけ積極的につぼみに向かっていたのか。なぜ、ホモフォビアなのだろうかと自分を疑ってしまっていたのか。  ――全部、全部。  あの人が、好きだからだ。あの人の特別になりたいと思っていたからだ。だから、きっと、手が伸びていたのだ。 「マジか」  もう一度、呟いて、日和は頭を抱えた。  こんな死にそうな恋心を抱いたのは、生まれて初めてのことだった。
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