1458人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
自宅に戻るなり日和はキーケースに鍵を取り付けた。今のマンションの鍵と実家の鍵。そして、真木の家の鍵。締まりのない顏になっている自覚はあったが、誰に見られているわけでもないのだから構わない。
――これ、付き合ってるってことで、いいんだよな。
自身に言い聞かせるように、日和は考える。受け入れてもらった、ってことでいいんだよな。
ベッドの上に転がったまま、顔の前で揺らしていたそれを机上に置いて、代わりにスマートフォンを取る。検索画面を開いて、しばし逡巡。断ち切って、フリック入力。男同士。やり方。正しいのか、正しくないのか。日和には判別できないが、数多の情報が目前に提示される。
つらつらと目を通し、またべつのところに飛び、を繰り返しているうちに、眉間に皺が寄り始めてしまった。むっとした感情の揺らぎを自覚して、画面を閉じる。
――口で、してやろうか?
無理をした風でもなんでもない、気遣いから自然発生した提案のような、それ。
好きだと思う人に触れて、キスをして。とまで来れば、それより先を求めるのは本能だと思う。とは言っても、日和はその瞬間まで、自分は淡泊だと信じ切っていた。
欲望のまま貪りたいと思ったことなんて、なかった。足りないと思ったことも。今までの恋人たちとしてきたセックスは、日和にとって半ば以上義務に近かったはずだ。
硬くなり始めた先端に、着衣越しに真木の手が触れる。その指先が躊躇なくベルトを緩めて。戸惑ったのは、日和の方だ。真木さん、と名を呼べば、不思議そうに顔が上がる。
「したことない?」
いや、さすがにないことはないけど。
「したくない?」
いや、したいから、たぶん、手を出したんだけど。あれ、これ。俺が手を出したって認識で良かったんだよね。と言うか、今更だけど、そんなすぐにヤッても良いものなのかな。ぐるぐると頭の中で疑問が駆け巡る。
最初のコメントを投稿しよう!