屋上に一人

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 飛び降りるためにやってきた屋上に先客がいる確率というのは、一体どのくらいのものだろうか? 「あなたも、死ぬつもりなの?」  セーラー服の少女は、フェンス越しに眼下の町を眺めながら、平たい声でそんなことを尋ねてきた。 「一応、そのつもり」 「ふーん、そーなんだ」  私が答えると、彼女はやっぱり抑揚のない声で相槌を打つ。相変わらず、視線は町を見下ろしたまま。私がこの場所に来てから、ずっとそう。どうやら、まるで私に関心が無いみたい。割と劇的な出会いだと思うんだけどなー、と心の中で呟いてみる。  廃校になった学校というのはやっぱりどこか物憂げで、私みたいな人間を魅了する何かがあるのだろう。あてもなく町を彷徨っていた私は、ふと、何かに誘われるようにこの屋上にやって来た。もしかしたら彼女も、私と同じようにこの場所に引き寄せられたのかも。  私は彼女から目が離せない。  とても美しい少女だった。風になびく黒の長髪を左手を後ろ首の辺りに回して押さえつけながら、愁いを帯びた瞳で町を見下ろす彼女の姿は、まるで一枚の絵画を見ているかのようだった。  私もまた、彼女と同じようにフェンスの向こうに視線を送ってみた。曇天のせいだろうか? 今日は町全体がどこか寂しそうに見える。 「私さ、曇り空って嫌いなんだ」  脈絡もなく、少女はそんなことを言った。  相変わらず少女の声音は平べったくて、それが本心なのかは分からない。  頭上に視線を向ける。空一面に、雲がびっしりと敷き詰められている。 「ねえ、悲しみって何処に行くと思う?」  突然の問い。  意図するところが分からず、戸惑って言葉が紡げない私は少女の方に視線を移す。だけどその眼差しは町の方を見つめたままで、私の瞳と相見えることはなかった。  ただ、その下にある唇がゆっくりと、そして妖しく動き出した。 「悲しみは、きっと空に向かって昇っていく。昇って、昇って、でも途中で光が 悲しみを包み込んで消してしまう。悲しみにとって太陽は眩しすぎる。だから曇りの日は嫌い。昇って行った悲しみが雲に当たって、また私たちに降り注がれる。見て、今日は町全体がとても淋しそう」  どうしてだろう?  別に感銘を受けたわけでも、共感したわけでもないのに、少女の言葉はひどく私の心を揺さぶった。彼女の奏でる声は、どうやら私の心によく響くらしい。
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