屋上に一人

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「あなた、大学生?」 「え、あ、うん」  急に話題が私のことに変わって、慌てて言葉を返す。  少しは私のことにも興味を抱いてくれているのだろうか? 「どうして?」 「え、何が?」 「この場所にしたの?」  死に場所にこの屋上を選んだ理由を聞きたいのだろうか? 「死のうって思って、でも何処に行ったらいいのか分かんなくて、そんな時、たまたまこの校舎を見つけんだ。ここは高校だったのかな? 廃校になっていたみたいだから簡単に忍び込めた」 「大学生?」 「一応。ほとんど行ってないけどね」 「友達とかは?」 「いたらここには来てないよ」  私は彼女から目を離すことができない。それは単純に少女の容姿が優れているからというだけではなく、この少女から一時でも目を離せば、次の瞬間には消えていなくなってしまいそうな、そんな幻想的な雰囲気を彼女がまとっているためだ。  もっと、彼女のことを知りたいと思った。きっといい冥途の土産になる。 「あなたは、ここの――」 「生徒だった」  ここが高校なら、十中八九彼女は高校生なのだろうけど、身長が低いのも影響しているのか、中学生くらいに見える。  まあいずれにしろ、私より年下なのは間違いないだろう。  幼く、愛くるしい横顔。  にもかかわらず、彼女はどこか大人びていて、それは単純に齢を重ねれば得られるのではない、何か特別で異質な雰囲気を漂わせているのだ。きっと私がこの先どんなに苦労したとしても、この少女には人として到底及ばないような気がする。 「でもさ、別に死ななくてもいいんじゃない? それとも、そんなに辛い悩みでもあるの?」  彼女に尋ねたいことは山ほどあるのだが、先に質問を並べられてしまった。 こうなると答えないわけにはいかない。 「……別に辛いこととかがあるわけじゃないんだけど、ただ、つまらないの。代わり映えのしない毎日が。このまま生きていたって、何がしたいのかも分からないし。……こんな理由で死んだら怒られるかな?」 「ふーん」  どうでもよさそうに呟いてから、彼女の瞳がはじめて私の姿を捉えた。  刹那、心がその黒いガラス玉に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
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