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「あん?何か言ったか?」
旅人の呟きを聞き逃さなかったおばあさんはすかさず包丁をギラリと光らせながら旅人に微笑みかけました。
「なんも言うちょらん。
ってか包丁持っとるなら切って食わんかいな」
「アホ!桃言うたらかぶり付くもんじゃろが!」
そう言って、おばあさんは再び桃の方に振り返り、カサカサな唇を近付けました。
旅人は心の中で、「見ちょる方が不愉快なんじゃ、これがババアやのうて若い子ならいくらでも眺めちゃるわ」と悪態をつきました。
もぐ、
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐもぐ
もぐもぐもぐもッぐぐっ……もぐもぐもぐ
「……おい、婆さん。
一寸や言うたやろが、どんだけ食いよんな」
おばあさんはデカ桃のあまりの美味しさに口が止まりません。
「喧しい!
もぐもぐもぐ。
これだけあるんじゃから一寸くらいようさん食べてもええじゃろが」
おばあさんは瑞々しいデカ桃の果汁で口元だけでなく、顔も手から伝った腕も、着物の胸元もベッタベタに濡らしながら言いました。
────ドクンッ!
おばあさんがデカ桃を三分の一ほど食べ、ジトリと旅人を見つめた時、身体に異変が起きました。
ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!
ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクッ!
「あ、熱い!はぁっ、か、身体が焼けるように熱い!」
おばあさんはぺたりと座りこみ、両腕できつく自身を抱き締め、苦しみだしました。
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