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ほんとうの暗闇を、いつしか人は知らずにいる。
それは、目が慣れたら薄ぼんやりと輪郭が見えてくるような甘いものではなくて、引き摺り込まれるような闇。
目を閉じるのは怖い。でも目を開けても見えないのはもっと怖い。
新月の晩、暗闇の森に立っていると、自分が本当に目を開けているのかさえわからない。顔の前に掌を往復させても見えないほどの漆黒。
私が閉じ込められたのは、そんな浸界だった。
*
もし目の前にあなたがいたら、私は気配でそれを感じ取れるだろうか。
あなたの顎を、首筋を、髪を撫でたなら、わかるのだろうか。
少しずつ移動していく私の手にあなたが思わず声を洩らしたら、あなたの吐息を感じられたなら、果たして。
あこがれだけで、あなたに触れたことなど、ただ夢の中だけのことなのに。
空想はエスカレートする。
君は臆病なおとなしい人。勇気なんて欠片も持ち合わせていないはず。そんな風に高を括られ、排除された小さき者。
もう誰のものでもなくなる。いつしか暗闇に支配される。
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