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雪の章 二
その夜、夢を見た。
私は広くて冷たい床に一人座って、黙々と積み木を重ねてゆく。
あ、きれいな形になってきた。そう思った途端、がらがら崩れていった。
なのに夢の中の私は冷めた感情でそれを一瞥してから、またひとつひとつ積み始める。
ただただ虚ろに積み上げ、また崩れ、また積み始める。
気が遠くなる作業を何度も繰り返し、嫌な空気が身体中に纏わりついてくる。
起きた時、空しさだけが残っていた。ばらばらの積み木が自分の無力さに思えた。すれちがい、ゆきちがい、追いつけず、残される。
*
梅雨明けの夏の晩のこと。行平さんが「一杯つきあって」と言って、バス乗り場と反対方向へ歩き出した。
「私はお酒はあまり」と言うと、
「ああ、一杯って言っても珈琲だよ」
と、豆をひく真似をしてみせた。
並木道をしばらく歩くとその喫茶店はあった。彼は重そうな木の扉を押し開けると、窓際の席に私を誘った。
そこからはひっそりとした夜が見えた。一つだけ奇異に目立つビルが高くそびえ、外側にはらせん階段が、人の指を巻き付けたような形に廻っている。その巻貝ビルから重さは感じ取れず、すっと地面から引き抜かれて空に持っていかれそうな気がした。
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