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彼が手を止めたページを見せてもらうと、そこにはぽっかりと四角い穴が空いていて、その中に六角形の石が収まっていた。赤く燃えるような石はこんな薄暗い森の中でも、きらりと輝いている。
思わず触れようと手を伸ばすと、ジュリアンはさっと本を遠ざけた。
「ジル。他人の核に、無闇に触ってはいけませんよ」
彼女はその手を引いた。ジュリアンの言う通りだ。その琥珀色の瞳を光らせて、ジュリアンは彼女を上目遣いで見た。
「この核さえあれば、今すぐ呼び起こすことは可能です。ただ、今のままでは実体がないんです。僕の力が続かなければ、彼は今度こそ死んでしまう」
「どうすればいいのでしょうか?」
ジュリアンは八重歯を覗かせて、にやりと笑った。
「秘宝を取り戻すのです」
――彼女が彼の元に招かれたとき、その秘宝は既に存在していた。魔王の座の奥にひっそりと存在していた部屋。そこで厳重に管理されていた、頭くらいの大きさがあるエメラルドグリーンの珠。それは多大な力を有しているのだと教えられていた。
「もう少し詳しく言うと、あれは願いを叶える珠なのです。あの中には、あの人の理性が眠っている」
「理性?」
「そうです。あの人が人間だった時のね」
ジュリアンは木の根元の岩に腰かけて、一つ一つ話し始めた。彼が、なぜあの珠を守ってきたのかを。
「あの人は、元々魔術について研究していて、自身も魔術師だったのです。しかし、ある日研究に失敗してましてね。あの秘宝が出来上がりました」
当初、秘宝は魔界や冥界との境界をこじ開け、良からぬものを引き寄せる邪悪なものだった。そんなものを作り上げてしまった責任を感じたあの人に、ジュリアンは提案したのだ。私と契約しないか、と。
私と契約すれば、魔界や冥界の境界を塞ぎ、さらにその珠を他の者から守る力をやろう。その代わり、あなたの命は私が預かる。
彼は、この提案を受け入れた。そしてその珠の力を封じ込めるために、自らの理性――すなわち、“コントロールする力”をその珠に移したのだ。
「その結果、あの珠は願いを叶える力を持つようになった」
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